天涯孤独な身の上の主人公、湯築恭介(ゆづき・きょうすけ)は中堅商社に勤務するサラリーマンだったが、所属部署の部長が不正を働いているのを知り、その事実を出世の糸口としようと動き始めた矢先に、部下のOLの裏切りにより、部長にその事実を知られ直属の課長により、部長の不正の責任をその身に押しつけられた挙げ句、懲戒解雇という最悪の形で職を失う。
30半ばでの再就職はままならず、カードは停められ、公共料金や家賃も滞納し、自身の前途に希望を見出せぬ苦境にあった。
いつのまにか自殺を考えている自分を発見し、滂沱と涙する恭介。
一体何故、どうしてこうなってしまったのか。
やがて、涙は悔恨のそれとなり、怒りのそれへと変わった。
すべてが憎い。
いいだろう。
死んでやる。
だが、ただでは死なぬ。
俺をこんな苦境に陥れた者たちに、これ見よがしに幸せの約束された人生を謳歌する者どもに、俺の味わった以上の屈辱と絶望を与えてやる。
嗚咽はいつのまにかくぐもった笑い声になり、やがて哄笑となった。
美しき贄どもよ─── 脅え、狂い、よがりながら堕ちて逝け。