ときは大正の中期。
ところは繁栄の最中にある帝都・東京。
梅雨入りの近づく蒸し暑い時節に、物語は始まる。
若き油絵画家・相良正輝が手掛けた肖像画。
画家の仕事として申し分のないその作品は、突如、原因不明の変化を起こした。
画布に描かれた穢れなき乙女が、頬を火照らせ、口の端から淫らに舌を覗かせ、妖しく細めた瞳で媚びを売り鑑賞する者に微笑みかける。
何者かの悪戯か?あまりにも優れた作品ゆえに、怪しき魂が宿ったか?それとも、鏡の如く、モデルとなった乙女らの真を映し出しているのか?やがて、画の変貌は先触れに過ぎなかったかのように、乙女らの身の周りでも不穏な影が蠢き始め……