主人公阿佐見輝彦は早くに両親を亡くし、妹清花と二人暮しだった。
だが唯一の肉親である清花を突然病で亡くしてしまう。
妹の葬式。
全てを失った阿佐見は生きる希望を失い、死に場所を求めて彷徨うのであった。
妹を追うかのように、あてもなく列車で旅を続ける阿佐見。
ふと、うたた寝から覚めた阿佐見が窓の外に視線を向けると、そこには今まで見たこともない深い朱色い染まった、悠々と連なる山々の姿があった。
あまりの美しさにしばし見とれる阿佐見。
その絶景は、あれからいつ消えても不思議ではなかった心の灯火を少しだけ取り戻させてくれた。
しばしその景色に見とれていると、やがて電車は小さな駅へと到着した。
駅名が記される古い木製の看板には「蛍乃駅」と書かれていた。
阿佐見はここに決めたと言わんばかりに、その駅へと降りた。
阿佐見はその景色に誘われるように小高い丘へと登ると、そのてっぺんでのびをする。
晩秋のひんやり冷たい空気が頬をかすめるが、それよりも見たこともない絶景と美しい空気が心地よく、寒さなどまったく気にならない。
阿佐見はここで旅を終える決心をしていた。
ここなら彼女も喜ぶだろう。
なぜかそんな風に思えた。
・・・・・!と・・・ふと背後から、自分を呼ぶような声を聞いた。
いきなりと阿佐見の前に現れた少女は、なにやら阿佐見を呼んでいる。
少女の顔は顔面蒼白で慌てふためいている様子がうかがわれた。
少女は姉が崖から転落し、谷底に落ちそうなのだと言った。
阿佐見が少女に引っ張られるようにその場所に連れて行かれると、そこには車椅子とそれに乗った女の子が崖から生える木にひっかかっているのが見えた。
かろうじて木の枝に支えられているが、いつ落下してもおかしくない状態だった。
それが、阿佐見輝彦と、石蕗深雪の、運命の出会いだった。