―――季節は春が終わる頃。
医療機器メーカーに営業マンとして勤める鈴木直樹(28)は、この春、営業主任に昇格した。
3年前に営業先の病院の看護師である華恋と恋愛結婚したが、2歳年下の妻は今もハードな看護師の仕事を続けている。
気の優しい彼はそんな妻を気遣う良く出来た夫だが、4年目になる結婚生活を惰性で過ごしているような感覚に囚われていた。
“妻を本当に愛しているのだろうか?”と、最近自信がなくなってきていた。
そんなある日、就職活動時に大学のOBとして世話になり、入社後も1年ほど仕事を教わった先輩・高村明が、西多摩営業所から同じ「営業主任」として戻ってきた。
先輩ではあるが肩書きが同じものになっているため「同僚」だ。
相変わらず世話好きの気の良い人で、住んでいる町も、最寄りの駅も近いため、すぐに意気投合した鈴木、は招かれた高村家で偶然高村夫婦の夜の営みを覗いてしまうことになる。
自宅に帰宅してからも、同僚の妻・真由美の乱れた姿が頭から離れなかった。
ある日、真由美から“会いたい”と電話がきた。
「この前、わたしたちのセックス……見ていましたよね?」突然の問いかけに声も出ない。
「じつはわたし、今まで主人でイったことがなかったんです。
でも鈴木さんに見られていたあの日……初めてイったんです。
だからまた、主人を愛しているか分からなくなってしまって……」真由美も彼同様に自分のパートナーを愛しているかどうか、自分の気持ちが分からなくなり、悩んでいた。
「お願いです。
一度だけ、わたしを抱いてもらえませんか? そうすれば、あの人への気持ちがハッキリすると思うんです」あり得ない嘆願に驚く鈴木だが、真由美の心底悩んできた様子、潤んだ瞳……。
なによりも自分の妻とは違う真由美の淑やかさに性衝動を抑えることが出来なかった。
ふたりはそのまま、ラブホテルへと入っていってしまう。
そのときの快感をふたりは忘れることが出来なかった。
一度きりだったはずの情事を、二度、三度と重ねていってしまう。
「会いたい」が「逢いたい」に変わっていき、秘やかに、しかし濃密にふたりは愛慾に溺れていく。
それは、偶然のスワッピング行為だった。
でもそれは……夫婦間の距離が生んだ必然だった。