“少女を殺した”というかすかな記憶を糸口に、時の彼方に封印された様々な“傷”が浮かび上がる――俺が殺した少女は、誰だったんだろう──。
主人公“国見恭介”の脳裏にちらつく一つの映像。
遠い過去の記憶。
細部は何処までも曖昧に、核心だけが恭介の心を貫いている。
――「俺は確かに、一人の少女をこの手にかけた……」――。
時間も場所も不確かで、それが誰だったのかすら分からない。
思い出は、頭にばかり詰め込まれるのではないと、恭介は思う。
身体が覚えている。
主の意志からは隔たった場所から、身体が一つの映像を映し出す。
……遠い過去の記憶。
細部は何処までも鮮明に、恭介を緋色の追体験へと誘い出す――「ふふっ……お兄ちゃん……」。
誰かが少女の手首をきつく掴み、汗に濡れた肌、荒い呼吸、重ねられた肌の色。
恭介には、絵麻という妹が居た。
頭も身体も覚えている。
記憶は何処までも鮮明に、追体験の必要もなく、今日も同じ行為が繰り返される…。
国見恭介は、もう一つ、罪を抱き続けてきた。
高低差が激しく、自然に囲まれた森園町。
この町において、とある噂が、まことしやかに流れていた。
“マージ”という名の薬、それが町に出回り、その薬はタイムトリップを可能にするという。
“マージ”を巡る騒動が次第に町を騒がしくさせ、やがて、恭介もそれを手にする事になる。
その時、恭介の脳裏に浮かんでいたのは、過去に犯した過ちの事だった。
“マージ”によって、浮かび上がってくる過去。
それはやがて、恭介を、彼を取り巻く少女達が抱える心の深みへと導いていく……。