豊穣な海と豊かな緑に囲まれた小国、ブランドゥール。
恵まれた地故に大国に狙われ、幾度もの戦火を乗り越えたブランドゥールの人々は、ようやく訪れた穏やかな暮らしを日々慈しんでいた。
だが、主人公――領主の異母弟であり、王位継承権第二位の王子であるルイ・アントワーヌ・レオンだけは、違った。
彼は母親が魔族であるという『異形の血』の持ち主である事から謀反を疑われ、無実の罪によって暗殺され、その死体は森の奥へと捨て置かれた。
『いつか、すべて奪ってみせる――。
』不思議な力によって生き永らえたレオンは、魔物よりも醜い人間達の争いの中、ただそれだけを胸に誓った。
彼はその出自のすべてを隠し、クロエと名を変えた。
そして、十三年の月日が経った。
クロエは隣国からの修行僧として、王宮に近いテルミドール修道院へと潜り込む。
テルミドール修道院には戦災孤児達が多く集められ、聖職者となるべく教育を受けていた。
信仰に厚い領主に優遇され続けたお陰で、聖職者である筈のテルミドール修道院は、内部から腐り始めていた。
中でも領主に目をかけられているのが、先の戦で奇跡によって窮地を救ったという白の聖女・ソフィーティア。
そのソフィーの傍らには、兄の娘である王女・ジョゼフィーヌの姿があった。
幸福そうな彼女達の姿に、クロエの中のレオンが叫ぶ。
『今だ、今だ。
すべて奪え』と。
そしてクロエの心に味方するかのように、突如、人間達に牙を剥き始める魔族達――。
豊かな大地に、乙女たちの悲鳴と魔族の咆哮が響きわたる。