フィール公国‥‥。
保養地としても有名なその国を治めるのは、民に慕われる公王。
そして‥‥「白の至宝」とまで言われる、美しく、優しい公女‥‥。
その国の人々は、ささやかながらも平和に暮らしていた。
だがある日、突然‥‥その平穏は、終焉を迎える。
近隣の大国、ヴァルドランドが武力侵攻を開始。
圧倒的な戦力の差に、公王は命を落とし、騎士団はなすすべもなく潰走した。
そして‥‥陥落したフィラン城の王の間。
壁際に身を寄り添わせ、涙を浮かべる侍女達。
と‥‥1人の女性が侍女達を割って、ヴァルドランドの黒鎧の騎士達の前に進み出た。
エルフィーナ「‥‥貴方がたを率いていらっしゃった方は、どちらですか?」 凛とした‥‥だが美しく、静かな声。
高慢さを消し去り、ただ高貴さと美しさだけを純粋培養したかのような雰囲気。
たおやかで慎ましく‥‥そして美しい一輪の花――‥‥。
魅入られたかの様に黒い騎士達が静まりかえる中、1人の男が応える。
ヴァイス王子 「騒がせて悪いな。
オレがヴァイスアード。
ヴァイスで結構だ」王座に腰を降ろし、“旧”フィール公国に対する布令を読み上げるヴァイス。
「生き残った男は、全てヴァルドランド本国に連行する」「残りの住民は、全員、この街を訪れる者に対して、“奉仕”する義務を与える」「なお、奉仕とは、“あらゆる意味での奉仕”であり、その内容に関して住民は一切の拒否権を持たない」‥‥そしてその日から、旧フィール公国は国全体が、奉仕国家となった‥‥。