神無月神社の次男である「ひかる」は、家から離れ、大学の寮で暮らしていた。
実家に帰らないのも跡取りの長男の嫁、義姉の北山桐子と道ならぬ関係にあり、兄と顔を会わせずらかったからだ。
そんな中、突然の事故で、兄と桐子の二人は死亡してしまう。
桐子の死により、一人残された病弱の少女 北山紫音 を引き取り、跡取りとして家に戻るひかる。
兄として紫音を育てていく日々。
坂の多い小さな町で繰り広げられる、それはちょっと切ない、心温まる物語。
ある夏の日、僕は君を見つけたんだ─────「紫音ちゃん、これから僕のこと、兄と呼んでくれるかい?」「ひかるさん……私を…ここに置いてくれるんですか……」「もちろんだよ、もう、二人だけの兄妹じゃないか」紫音の手から傘が落ちる。
くりくりとしたどんぐりのような目に涙をいっぱいためて、泣きじゃくり始める。
まるで、周囲の音が……世界が止まったかのように。
さっきまでうるさいくらいに響いていたセミの声も、暑い陽射しも感じず。
愛おしさで、思わず、抱きしめていた。
ただ感じるのは彼女の柔らかな温かさ。
彼女は僕の身体に顔を埋め、しゃくりあげながら言う。
「お…にいさん……」─────よろしく、僕の小さな妹。