魔法科学の発達した国『サファイム王国』。
王都から遠く離れた山村には、異世界に通じると言われる封印された門『異界の門』がモニュメントのように佇んでいる。
この『異界の門』に隣接する森の中に、周囲を拒絶するかのように建つ『王立封魔研究院別館』で俺は所長を務めていた。
変わり者とは言われるが、最高位の魔法医師であり、予算も好きなだけ与えられる身分であったが、俺には1つだけ欠けているものがあった。
過去が、ある時期以前の記憶がなかった……。
ある日、その静寂の館に一人の妖魔憑きの娘が運び込まれてきた。
本名も年齢も全て不詳、ただイーリーと言う鑑札をつけられたその少女は、鎖を柔肌に食い込ませる程に拘束され、黒衣の法術士に引きずられるように やってきた。
いや少女かそれとも年増か、そもそも女か男かすらもわからない“それ”は、それでも常人には無い気品を漂わせていた。
そして“それ”を連れてきた黒衣の法術士……明らかな高施術者と思われるただならぬ雰囲気……。
久しぶりに俺の欲求を満たす素材が現れたことを本能的に理解した。
俺は治療と称し、さまざまな実験をイーリーに加えた……。